仕切りの間も、もう勝負は始まってる! 目線と「手をつく順番」の駆け引き
仕切りはただの準備じゃなくて、もう勝負の一部。相手の表情や目線を見たり、先に手をついて待つか、後から手をついてタイミングをにぎるか。立ち合いまでの心理戦を調べてみました。
仕切りは、ただの準備じゃなかった
前の記事で、仕切りの一つひとつの所作には「清める」「誓う」「呼吸を合わせる」という意味があると書きました。でも、仕切りを何度も見ているうちに気づいたことがあります。仕切りの間も、もう勝負は始まっているんです。
仕切り線の前でしゃがんだとき、相手の顔をじっと見つめる力士もいれば、目を合わせない力士もいる。手をつくタイミングも人それぞれ。立ち合いの前に、目に見えない駆け引きがたくさんあるみたいなんです。
【写真:仕切り線の前でにらみ合う2人】
【ふきだし】しゃがんで見つめ合ってる数秒、じつは心理戦だった!
【用語カード】立ち合い(たちあい)
仕切りから立ち上がって、ぶつかり合う最初の瞬間のこと。相撲には「よーい、ドン」の合図がなく、ふたりが両手を土俵について、呼吸が合ったときに始まります。最初の数秒でいい体勢をつくれるかどうかが、勝負の大きな分かれ目になります。
相手の表情を見る
仕切りの間、力士は相手の表情や目線、体の動きを見ているそうです。気合いが入っているか、落ち着いているか、どっちに当たってきそうか……。逆に、自分の気持ちを読まれないように、わざと目を合わせない力士もいます。
制限時間いっぱいに近づくにつれて、にらみ合う時間が長くなったり、塩をまく動きが大きくなったり。仕切りをくり返すたびに、ふたりの気持ちがどんどん高まっていくのが伝わってきます。
先に手をつくか、後から手をつくか
いちばんおもしろかったのが、手をつく順番の話。立ち合いは両者が両手をついたときに始まるので、後から手をついた方が、立つタイミングを決めやすいんです。たとえば東が先に両手をついて待っていたら、西が手をついた瞬間がスタートになります。
だから「後から手をついて主導権をにぎりたい」力士もいれば、「先に手をついて、どっしり待ちたい」力士もいます。どちらがいいかは、その力士の相撲のスタイルしだい。
先に手をついて待つ | 後から手をつく | |
|---|---|---|
どんな感じ? | どっしりかまえて、相手が来るのを待つ | 相手の様子を見てから手をつき、そのまま立つ |
いいところ | 落ち着いて受け止められる。「いつでも来い」と相手にプレッシャー | 立つタイミングを自分で決められる=主導権をにぎりやすい |
気をつけたいところ | 相手のタイミングで立たれるので、出遅れることも | 早すぎると手つき不十分で「立ち合い不成立」になることも |
私が取組を見ていて感じるのは、こんな感じ。先に手をついて待つことが多いのは、義ノ富士、藤ノ川、平戸海、大栄翔、安青錦、一山本など。反対に、後から手をつくことが多いのは、若元春、伯乃富士、豊昇龍、霧島、豪ノ山など。次に見るときは、この力士たちの手もとに注目してみてください。
【手書きメモ】後から手をつく=タイミングをにぎる/先に手をつく=どっしり待つ
昔の大横綱・双葉山は、相手に合わせて立ちながらも先手をとる「後の先(ごのせん)」の立ち合いで知られています。相手が先に動いても、受け止めてから自分の相撲に持ちこむ。待つことも、ひとつの強さなんですね。
手をつくふり、ずらすタイミング
なかには、手をつくふりをして実際にはつかなかったり、自分だけのリズムで相手のタイミングをずらそうとしたりする力士もいるそうです。ただ、両手をしっかりつかないまま立つと、行司や審判に止められて仕切り直しになります。駆け引きにも、ちゃんとルールがあるんです。
気になって調べた:仕切りと立ち合いのルールの歴史
【データカード】
いつ | できごと |
|---|---|
大正時代まで | 仕切りに制限時間がなく、1時間以上仕切った取組もあった |
1928年 | ラジオ中継の開始に合わせて制限時間ができる |
1950年9月 | 今の制限時間(幕内4分・十両3分・幕下以下2分)になる |
1984年秋 | 力士研修会をきっかけに、両手をつく「手つき」が厳しくなる |
今 | 手つきが不十分だと行司や審判が止め、仕切り直しになる |
出典:nippon.com「大相撲の立ち合い」の記事を参考にしたもの
大正時代までは制限時間がなく、1時間以上も仕切った取組があったそうです。それが今は幕内でも最大4分。そして1984年からは「両手をしっかりつく」ことが厳しく見られるようになりました。それまでは中腰のまま立つ立ち合いがほとんどだったそうで、今の立ち合いとはずいぶんちがったみたいです。
次に行く人へ
【まとめ枠(墨ベタ)】
- 時間いっぱいになったら、どっちが先に手をつくかに注目。後から手をついた方がタイミングをにぎっています。
- しゃがんだときの目線もチェック。にらみ合う人、目をそらす人、力士ごとにちがいます。
- 立ち合いが合わずに止められたら、どっちのせいかも見てみると、駆け引きがよりわかります。
- 双眼鏡があると、表情までよく見えて、仕切りがもっと楽しくなります。
※この記事の数値は、筆者が自分で調べて数えたものです。正確とは限りませんので、ご了承ください。